PDIセンターのご紹介 vol.1

その他 2008年3月27日

~輸入車の品質維持のかなめ~

輸入車は、文字どおり世界各国から主に船便で日本まで輸送されてきますが、お客様のもとに納車される前に、日本国内で非常に厳しい品質チェックを受けていることをご存知ですか?
日本の港に陸揚げされた輸入車は、ディーラーに搬送される前に、インポーター各社の専用施設で独自の品質検査や、日本の保安基準などへの適合確認を行います。
このような作業は「出荷前点検:Pre-Delivery Inspection。以下、PDI」と呼ばれ、輸入車にとっては、「世界で最も厳しい」とされる日本の自動車ユーザーの期待に応えるために、欠くことのできない作業です。この作業を行う新車整備(PDI)センターの多くは、三河港(愛知県)、日立港(茨城県)、千葉港(千葉県)、横浜港(神奈川県)などの日本の主要港にあります。
今回は、知られざる「新車整備(PDI)センター」の姿と、品質確保に向けたインポーターの取り組みをご紹介します。取材に当たっては、フォルクスワーゲン グループ ジャパン(株)(愛知県豊橋市。以下、VGJ)のご協力をいただきました。

【最新版の取材記事はこちら→https://www.jaia-jp.org/ja/news/pdi_vol03/

豊橋インポートセンター

VGJ豊橋インポートセンターは愛知県の三河港(明海埠頭)の工業団地の一角にあり、1992年に操業を開始しました。三河港は、VGJ社のほかにもメルセデス・ベンツ、フォードグループ、トヨタ自動車などが拠点を構え、自動車輸入台数は15年連続で日本全国1位という、世界的にも有数の輸入自動車集積港です。2003年には国際自動車特区にも認定されました。
VGJが豊橋に拠点を設けた理由は、本州の中心に位置し、国内物流に適したインフラ(高速道路、海運網)が整備されていること、専用岸壁が確保できること、輸入基地の建設に必要となる広大な用地が確保できたこと、自動車関連産業が多く人材が豊富に確保できたことなどから、三河港が適していると判断されたためです。
VGJ豊橋インポートセンターは、37万平方メートル(東京ドーム約8個分)の敷地の中に、PDI業務を行う新車整備センター(TSC)のほか、純正部品・アクセサリーの保管・入出荷を行う中央部品倉庫(CPD)、メカニックの技術トレーニングを行うトレーニングセンター、車両保管ヤードなどの施設を備えており、主に、 フォルクスワーゲン、ベントレー、アウディ、ランボルギーニ、ポルシェの5ブランドを取り扱っています。

カーサイロに描かれたブランドロゴ

新車整備センター(TSC)

では、PDIの仕事の流れを見てみましょう。
新車整備センター(TSC)では、約200名のスタッフが以下の工程で品質検査・整備・完成検査を行っています。

(1) 陸揚げ

海外の自動車工場で生産されたクルマは、自動車専用船で三河港(明海埠頭)まで運ばれます。到着までの日数は、ドイツのエムデン港から約1ヶ月、南アフリカのポートエリザベス港から約25日、メキシコのアカプルコ港から約20日です。専用船は平均して月5回ほど来港し、一隻で約2,000~6,000台のクルマを運んできます。専用埠頭で陸揚げされた新車は、4,500台収容できる保税エリアで通関手続きを経た後、TSCでの作業を待ちます。

保税エリアに並ぶクルマ

(2)プレワーク

必要に応じてガソリンを補給し、フルボディカバーの除去などを行います。

フルボディーカバーの除去

(3)車両洗浄

1分間300リットルの流水(施設内で循環して再利用)で、輸送中のホコリなどによるボディの汚れを丁寧に洗い落とします。フルボディカバーやラップガードが施されているため、ほとんど汚れはありません。なお、かつて多くの輸入車に塗布されていた塗装保護用ワックスは、環境保護の観点から、現在ではVGJ が取り扱うモデルでは全て使用されていません。

洗車機で洗浄

(4)外観検査

いよいよPDIの要とも言える検査ラインに入ります!
ここで、日本のお客様の厳しいニーズに応えるための徹底した品質チェックが行われます。
照明でボディを照らしながら、熟練した専門の検査員が1台ずつ丁寧に、ガラスやボディにキズや凹みがないかを入念にチェックします。わずかな不具合も見逃さずマーキングし、専用の作業指示書に不具合の種類や部位を専用の管理コードで入力して、後工程の整備担当スタッフに確実にバトンタッチします。

検査員が入念にチェック

(5)機能検査

エンジンルームやボディ下部、ランプ、スイッチ類などの機能を点検します。習熟した専門の検査員がクルマに乗り込み、ドアの開閉検査やランプ類を実際に点灯させたりしてチェックします。以前は、シャシーダイナモに載せて模擬的に実際の走行状態にして点検するドラムテストも実施していましたが、長年にわたる企業努力による品質向上の結果、これもVGJでは現在行う必要がなくなりました。

機能検査では下回りもチェック

(6)型式指定完成検査

ここでは、日本の道路運送車両法に基づく完成検査を行います。VGJでは現在、全ての完成車が海外の生産工場で事前に日本の法規に合わせた検査を受けて来るため、一部の項目だけ検査し、完成検査終了証を発行しています。

型式指定完成検査

(7)保管・出荷

厳しい品質検査、日本基準への適合検査を終えた車両は、出荷されるまでカーサイロで大切に保管されます。VGJ豊橋インポートセンターには、5,352台収容可能な、インポーターとしては最大規模を誇る巨大な立体式カーサイロがあります。内部は14階建て、6クレーン12ライン構成となっており、搬入出は全てコンピューター制御されています(注:ちなみにカーサイロは二棟あり、第二カーサイロの収容台数は約1,200台です)。

自動化されたカーサイロへの搬入出

正規販売店から発注されたクルマは、専用の自動リフトでカーサイロから運び出され、サイロ横の出荷ヤードで積載車に積まれ、全国のディーラーへ出荷されます。ディーラーに到着した後も、いま一度正規販売店で最終チェックとクリーニングが行われ、お客様に納車されます。

積載車に積まれ全国へ出荷される

パーツデポ

VGJ豊橋インポートセンターは、敷地内にあるパーツデポでフォルクスワーゲン、アウディ、ベントレーの純正部品・アクセサリーの保管・出荷管理も行っています。延べ床面積約19,500平方メートルの部品倉庫には、約57,000種類の部品が保管され、「ET2000」というドイツ VWAG本社のシステムによって徹底した在庫管理が行われています。
これらの純正部品・アクセサリーは主にドイツのカッセルにあるVWAG本社のマスターデポから輸入され、名古屋港で陸揚げされた後、豊橋インポートセンターまで陸送されます。平均で1日に40フィートコンテナ4~5本、約1,200アイテムが入荷します。

パーツデポ内部

○入荷管理

パーツデポに純正部品・アクセサリーが搬入(入荷)されると、ドイツVWAG本社の入荷情報に基づいてアイテムや数量、梱包状態が確認されます。そして万一入荷品に不具合が発見された場合には、不具合情報がドイツVWAG本社のマスターデポにフィードバックされ、改善措置が行われます。

入荷品の検品作業

○スペアキー

パーツデポでは、スペアキーの作成も行っています。スペアキーは不正使用を防止するために厳格に管理する必要があり、ドイツVWAG本社以外では限られた国にしかキーの作成が許されていません。そして、日本はその中にあってVWAG本社の厳格な基準を満たしているため、キー作成が許されている数少ない海外拠点のひとつとなっています。これにより、日本ではお客様をお待たせすることなくスペアキーをお渡しすることができます。

キーの作成

○立体自動倉庫

パーツデポには様々な自動化設備が導入されています。その中でもひときわ目立つのが、高層の立体自動倉庫(AS/RS)です。この立体自動倉庫には入出庫レーン3本と取り出し専用レーン2本があり、約4,200のパレット(梱包単位)を格納することができます。さらに、日本のパレットが通常1.1 メートル×1.1メートルであるのに対し、ドイツのパレットは1.3メートル×1.7メートルと大きいため、この倉庫はレーンの間口やリフトもドイツのサイズに対応できるよう設計されています。

立体自動倉庫から搬出される純正部品

○出荷

パーツデポでは、全国の正規販売店約360拠点(フォルクスワーゲン、アウディ、ベントレー)から1日平均9,300件のオーダーを受注し、その日のうちに出荷しています。このため、この倉庫で働くスタッフ(約130名。運送会社除く)は、正確かつスピーディな作業を行うことをモットーに日々の業務に取り組んでいます。

全国の正規販売店の注文に応じて商品を仕分ける

パーツデポが毎日受注するオーダーの多くは、サイズが小さく小ロットの部品です。これらの部品に対して、正規販売店のオンライン端末から刻々と注文が入ります。倉庫ではこれらの注文に基づいて、順次部品を出庫し、出荷先ごとに仕分けを行って、箱詰めします。 この作業を正確かつスピーディに行うために、倉庫ではコンピューター制御された「仕分け棚」を導入しています。倉庫のスタッフが出庫した純正部品のラベルのバーコードを設備のスキャナーに読ませると、該当する出荷先の仕分け棚のランプが点灯します。こうすることによって、仕分け棚の場所が瞬時に分かり、正確な仕分けが可能となります。

女性スタッフにより丁寧な梱包作業が行われる

正規販売店からの注文は、週単位の「在庫補充オーダー」と、毎日の「当日出荷オーダー」の2種類があります。これらの注文に対して、パーツデポでは多くの女性スタッフが活躍し、丁寧かつ迅速に作業を行っています。また、パーツデポが即座に出荷できる割合、即ち「即納率」は98%超と極めて高いレベルを維持されています。このようにパーツデポの活動は、アフターセールス部門の縁の下の力持ちとして、顧客満足度の向上に寄与しています。

取材協力いただいたVGJ社(豊橋本社ビル

本記事の取材は、2008年1月に行いました。
(一部情報は2016年8月31日に更新)

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