東京モーターショー2019 特別企画

共催/協賛/後援イベント 2019年12月4日

~アルピナ社CEOインタビュー~

アルピナ社 日本総代理店、ニコル ・ レーシングジャパン は東京モーターショー 2019 にワールドプレミアの『 B3 リムジン 』をはじめ、ジャパンプレミアの『 XD4 』など合計 4 台 を展示 し ました 。 同社としては 17 回目の出展とな ります 。同時にアルピナとニコルの関係は1979 年に始まったことから今年で 40 周年を迎え、 アルピナ 社 代表取締役社長のアンドレアス・ボーフェンジーペン 氏 も応援に駆け付けました 。

今回は特別にインタビュー時間をいただけたので、現在のアルピナの状況から、日本との関係、そして将来について 、 A ・ボーフェンジーペン氏と、ニコル・レーシング ジャパン 最高経営責任者の C.H. ニコ ・ ローレケ氏 に 語って いただきました 。


◆要求より1台少なく

Q:初めにアルピナのグローバルでの販売状況を教えてください。

アルピナ社CEOアンドレアス・ボーフェンジーペン氏(以下敬称略):約1,500から1,600台の販売を記録しています。

Q:プレミアムブランドとしてその台数は適切だと考えていますか。例えば、アルピナユーザーの中にはたくさん街に走ってほしくないと思う方も多くいると思います。その点を踏まえるともう少し伸びてもいいと思っているのでしょうか。

A・ボーフェンジーペン:もう少し伸ばしてはいたいと思いますが、一気に伸ばすのではなくマイペースで。アルピナの考えとしては常に市場から要求される台数より1台少なく生産する考えで、無理に伸ばすつもりはありません。

◆アルピナの哲学を理解している日本市場

Q:では、日本市場はいかがでしょう。

A・ボーフェンジーペン:日本は昔から大事な市場です。現在は世界第3位です。以前はイギリスが3位でしたが、この頃はずっと日本が第3位。1位はドイツで2位がアメリカ、ドイツは年間大体5~600台の販売台数で推移しています。

C.H.ニコ・ローレケ氏(以下敬称略):今年、日本市場は200台ほどです。現在3シリーズがラインナップにはありませんが、来年秋頃に日本に導入が始まる予定ですので、2020年から2021年には徐々に台数は増えていくでしょう。

Q:本国から見た時にその台数はいかがですか。

A・ボーフェンジーペン:高い評価です。

Q:ではこの日本市場はどういう特徴があると考えていますか。

A・ボーフェンジーペン:日本のお客様はかなり自動車に関しての知識が高く、また、アルピナの哲学をよく理解しています。さらに細かいところまでのクルマの質感やクルマ作りへのこだわりに関しては実に感動的です。

Q:その辺りは他の国々とは違う特徴なのですか。

A・ボーフェンジーペン:そうです。例えばアジア圏の市場であればそこまでの理解もなく、こだわりもあまりありません。

◆アルピナの秘密は二面性

Q:いまアルピナの哲学というお話がありましたが、それを具体的に教えてください。

A・ボーフェンジーペン:アルピナは決してクルマを開発する過程で最高出力のみを追いかけたり、レーシングカーのような感覚で走らせたりするようなことはあまり考えません。それよりももっと調和を大事にしています。つまりクルマ全体としての総合的なバランスが取れていることを重要視しているのです。
例えばエンジンでいえば常に重要視しているのはトルクです。しかも出来るだけ太いトルクを特に中間域で出るような設定をしています。そうすると最高出力をより高くするよりも、毎日の使い勝手において乗りやすさに繋がるのです。
また、トランスミッションもDモードのままでの走りは非常にスムーズで快適。よりスポーツ感覚を味わいたい場合にはSモードやステアリングホイールでのマニュアルシフトに切り替えれば楽しめます。
つまりアルピナの秘密は二面性を持っているということです。日常的にはまるで普通の乗用車のような使い方が出来る一方、ルームミラーにスポーツカーが近づいてきた場合には、そのスポーツカーに負けないような走りが出来るのです。その魅力が日本のお客様には受けていると言えます。このスペースの少ない日本で、スポーツカーと乗用車の2台を持つということはなかなか難しく、1台で全てを賄えるということが魅力につながっているのです。

◆タイヤ開発は1社に絞って

A・ボーフェンジーペン:もうひとつ、アルピナの大きな特徴としては足回りがあります。そのセッティングはハイスピードの時には安心感を与えながら、乗用車並みの乗り心地の良さ、快適性も兼ね備えているということです。

Q:その足回りのセッティングの秘密は何なのでしょう。

A・ボーフェンジーペン:秘密はランフラットタイヤを使わないことです。同時にアルピナの場合はひとつのモデルに対してひとつのタイヤメーカーとだけ開発をします。例えば今回発表したB3の場合には、ピレリ社とだけこのクルマのためのタイヤ開発をしています。他の乗用車メーカーの場合には、どうしても色々なタイヤメーカーとお付き合いをしなければなりませんので、3種類から5種類くらいのタイヤブランドを使わなければいけないですよね。そうすると全てが妥協になってしまうのです。しかし、アルピナの場合はひとつのタイヤに集中出来ますので、そこに合わせてサスペンションの開発も出来るわけです。そこがバランスをとることが出来る秘訣なのです。

Q:なるほど。しかし、サスペンションそのものもBMWとはかなりチューニングが違うように思います。

A・ボーフェンジーペン:もちろん基本設計は標準のBMWと同じです。ただし細かいところに気を使って開発はしていますので、そういったところの積み重ねで結果的には違ったフィーリングになっているのだと思います。

◆こんなにうまくいくとは思わなかった

Q:日本市場の話に戻りますが、今年、アルピナとニコルの関係が40周年を迎えました。この40年を振り返ってみてどういう感想をお持ちでしょうか。

A・ボーフェンジーペン:1979年のとき、ここまでお互いがうまくいくとは想像も出来ませんでした(笑)。誇りに思っているのは長年東京モーターショーに出展していることです。どんなに辛い時でもきちんと出展し続けたことはとても誇りに思っています。小さい魚はもしかしたら流れに乗らないで泳ぐことが出来るかもしれませんね。
もうひとつあるとすれば、日本市場にはディーゼルが合っていると考え、多くのインポーターが導入する前に思い切ってディーゼルを輸入し、そして成功を収めたことは喜びに感じています。
また、アルピナとしてとても嬉しく思っていることは、時々ニコルが全国のアルピナユーザーを招待し、サーキットイベントを開催していることです。私たちもそこに参加することで、生の日本のアルピナファンの声を聞くことが出来、その気持ちが伝わってきますので、それがとても喜びに感じています。

◆40年にわたる信頼関係から日本市場の要望を現実化

Q:そのユーザーの声を吸い上げて、次のクルマの開発につなげるということはありますか。

C.H.ニコ・ローレケ:それは数多くあります。日本のお客様の声を聞いて、場合によっては日本独自のモデルも何度も作ったことがあるのですよ。例えばD5 Sという現行モデルは日本にしかありません。こんなに小さな自動車メーカーであるにも関わらず、我々の要求に応えてくれるのです。これは我々の喜びでもあります。一生懸命我々が日本のお客様を代表していっていることに対して、関心を持ってくれているということはとても嬉しいですね。

Q:例えばどういう要望を伝えたことがありますか。

C.H.ニコ・ローレケ:それは数多くあります。日本のお客様の声を聞いて、場合によっては日本独自のモデルも何度も作ったことがあるのですよ。例えばD5 Sという現行モデルは日本にしかありません。こんなに小さな自動車メーカーであるにも関わらず、我々の要求に応えてくれるのです。これは我々の喜びでもあります。一生懸命我々が日本のお客様を代表していっていることに対して、関心を持ってくれているということはとても嬉しいですね。

Q:いま伺ったように日本市場の声を受けて日本に向けての専用モデルを作るほど、アルピナとして日本市場を大切にする理由は何でしょう。

A・ボーフェンジーペン:まず、我々は常にお客様の声は一番だと考えています。もうひとつは我々もメーカーですから、市場の隙間があれば、それもBMWレンジの中での市場の隙間があればそこにはきちんと向き合いたいと考えているからです。

Q:日本以外からも要望自体は上がると思いますが、どの程度応えているのでしょうか。

A・ボーフェンジーペン:もちろん世界中から要望は数多く来ます。しかし、日本とは40年間の過去の経験に基づいた信頼関係があります。言い方を変えると日本のために開発すると、きちんと日本のエージェントが販売してくれるという安心感があるということです。ですから日本に対して特別耳を傾けているというのは事実なのです。

C.H.ニコ・ローレケ:自動車メーカーですから、モデルを生産するということにはリスクがあります。そこでは確実に約束した分は受け入れるというバックボーンがなければ、メーカーとしてリスクを背負うことになりますから、なかなか動いてはくれません。しかし、日本との間で信頼が厚い理由は、確実に約束したことは常に守ってきていることが挙げられます。そういうことから日本の要望は取り入れてもらえるようになってきているのです。
我々は日本市場がよくわかっており、ノウハウもあります。それをアルピナにフィードバックすることは彼らとしては信頼出来る情報となってもいるのです。

Q:その部分ニコルさんとしては重責ですね。

C.H.ニコ・ローレケ:もちろん責任はありますが、お互いにパートナーですから、要求するだけで、後のフォローはしないというわけにはいきませんよね。
我々はパートナーにはとても恵まれています。彼らも日本市場に対して無理を言わないのです。従って常にお互いに本当の良い意味でのパートナーシップを結んでいるということなので、本当にありがたいですね。

Q:だからこそ40年続いたのでしょうね。

C.H.ニコ・ローレケ:お互いに尊敬しあっていますし、全くその通りです。

◆ディーゼルは継続、EVは?

Q:モデルラインナップについてお伺いしいたいのですが、アルピナには魅力的なディーゼルのラインナップが数多くあります。一方で特にドイツではディーゼルは逆風の状況といえます。それを踏まえてアルピナとしては今後、ディーゼルラインナップはどのように考えていくのでしょうか。

A・ボーフェンジーペン:おそらくアルピナから見てBMWは世界トップのテクノロジーを用いた綺麗なディーゼルエンジンを作っているメーカーです。特に我々のお客様の中には長い距離を走る人が多く、そうするとヨーロッパの場合、ハイブリッドや電気自動車ではそれをカバーすることは無理なのです。一回満タンで700km走りたいというお客様の要求に対してはディーゼルしか満たすことは出来ません。またディーゼルの燃料はヨーロッパ諸国のほとんどでガソリンよりも安くなっています。ユーザーにとってディーゼルのコストパフォーマンスはガソリンと比べて約6割程度なのです。最新のアドブルーのディーゼルエンジンはまだまだディーゼルとして将来があると思っていますので、SUVだけではなく今後も3シリーズも含めてディーゼルを続けていく予定です。
また、ハイブリッドテクノロジーはこれから2、3年でさらに進化するでしょう。そうするともうしばらくは様子を見ていた方が賢明だと考えています。もう少し待っていてからでも遅くはないでしょう。

Q:つまりディーゼルはディーゼルで存続をさせた上で、もっとハイブリッド技術が熟成された暁にはそれも投入していこうということですか。

A・ボーフェンジーペン:その通りです。

Q:そうするとハイブリッドも当然視野には入れているということですね。

A・ボーフェンジーペン:はい。ただし短期的視野で無理矢理にすぐ作るということではなく、中長期的に見て、良いものが出た時にと考えています。
もうひとつ背景として述べるなら、BMWのハイブリッドはいま現在ほとんど4気筒です。しかし、アルピナのお客様が要求しているのは大体6気筒以上なので、そこも考えていかなければいけないポイントです。

Q:では将来的にEVは考えられますか。

A・ボーフェンジーペン:長期的に考えた場合は、ありえないとは言いたくありません。ただし、短中期的にはまだ考えられないことも事実です。
ドイツでもアルピナがその家庭の唯一の一台になっています。先ほど申し上げた二面性を持っているからです。それを電気自動車に置き換えた場合、長い距離を走ることが出来なくなってしまいますよね。そこには無理が生じてしまうのです。

Q:長期的に見てアルピナがEVに手をつけるとするならば、700kmから800km走れるEVが誕生した時に初めて現実化するのでしょうか。

A・ボーフェンジーペン:そうですね。ただしそれはかなり先の話になるでしょう。その700kmから800km走るのに80km/h、あるいは100km/h以下で走るぶんには可能なのかもしれませんが、アルピナのお客様は決してそんな速度で走りたいとは思っていませんから(笑)。

Q:現在自動運転というのは話題のひとつですが、アルピナはどのように考えていますか。

A・ボーフェンジーペン:自動運転とアルピナのユーザーとは対極の存在です。つまりアルピナのお客様は自分で運転することに喜びを感じているということです。BMWでアシスト的なシステムを開発することに関しては、アルピナとしては良しとしています。例えば大渋滞に入った時にそこで自動運転に切り替えられるからです。しかしいつでも自動運転を使うということは将来のアルピナとしてもありえません。

◆いまの成功はBMWのおかげ

Q:今後の戦略について教えてください。今後アルピナとして中長期的に見た時に、どのようにいまの市場を見て、どのように対応したクルマを作ってきたいと思っていますか。

A・ボーフェンジーペン:ひとつ忘れてはいけないのは、常にBMWから出てくるベースモデルに基づいてアルピナのクルマは開発されているということです。つまり、BMWの動きに大きな意味があるということです。振り返ってみればこの50年、BMWと共に歩んで来ることが出来たのはBMWのおかげといっても過言ではありません。
おそらく今後も内燃機の開発は続くでしょう。中期ではおそらく48Vマイルドハイブリッドシステムを使う状況になり、それに合わせた開発をしていくことになるでしょう。もちろん、BMW自身のハイブリッド、フルハイブリッド、電気自動車への取り組みは常にウォッチしていかなければいけません。
アルピナは小さな自動車メーカーですから、7年後にどういうモデルを出さなければいけないのかをいま決める必要性はありません。大体2~3年先に何をやらなければいけないかをいま決めて、それを実現することは、スピード感を持って出来るのです。
加えて、これからテーマになってくると思われる人工燃料があります。通常の燃料ではなく新たに作られる、それが植物由来か何かは分かりませんが、それによって排気ガスがゼロになるならば内燃機関が再び面白くなってくるでしょうね。アルピナとしては10年~15年で完全に電気自動車に全てが切り替わるとは思っていません。それよりもいま以上に様々な選択肢が増えていくと考えています。
そういったことから今後の電気自動車の姿は、おそらく市内、街の中を使って、サイズ的には小型化、せいぜい中型でしょう。大型の電気自動車はあまり存在してこないのではないかと予想しています。

◆独自モデルは“いま”はやるべきではないが

Q:SUVに関してもアルピナとしては力を入れていますが、セダンなどと比べると車高が高いため、楽しく運転するというための開発は難しいと思います。その辺りはどのように考えていますか。

A・ボーフェンジーペン:アルピナのSUVを購入しているほとんどのユーザーは、オフロードではなくオンロードで走っています。つまり乗用車並みの直進安定性が高いことが要求されており、決して従来のSUVやトラックみたいな感じで走るということは望まれてはいません。またもうひとつ要求しているのは燃費が良いことが挙げられます。これはアルピナという会社が出来て以来、大切なことなのです。より速いクルマ、強いクルマを作るのは極端にいえば誰でも出来ます。それとともに燃費を意識することはアルピナの課題ですので、昔から燃費は気にしています。

Q:なぜ燃費を気にするのですか。

A・ボーフェンジーペン:アルピナはずっとレースをやっていた会社です。特に長距離レースでは燃費が良ければピットストップが少なくなりますから、結局は上手くいくのです。そこからこのDNAが生まれたのです。
また常にアルピナは最新のテクノロジーを導入しています。1978年、自動車メーカーとして初めてコンピューター制御の燃料噴射を導入しました。1986年にはメタルの触媒を量産車に初めて採用してもいます。そういう意味ではアルピナは小さいメーカーですが最新のテクノロジーへの取り組みを好んでいる会社なのです。

Q:そういうことはレースに向けて技術開発のベースがあるからこそ出来るものなのでしょうか。

A・ボーフェンジーペン:その通りです。

Q:では理想的なアルピナはどういうクルマであるとお考えですか。

A・ボーフェンジーペン:現在はB4 Sのリミテッドエディションに乗っていますが、これは非常に満足しています。冬になれば5シリーズツーリングはスキーに行くために非常に便利です。私個人としてはどちらかというと小さいか中ぐらいのクルマを運転するのが好きです。特にB7を運転しなければいけないとは思ってはいません。

Q:最後にアルピナとして独自のモデルの開発はないのでしょうか。

A・ボーフェンジーペン:小さな自動車メーカーではありますが、常に夢として独自のモデルを作ること、これは何年間かに一度は考えが浮かんできます。しかしここで冷静に考えなければいけないのは、独自で開発して作るということは、非常にリスクが大きいのです。開発コストやホモロゲーションのコストなど色々なことを考えた場合、いまアルピナがやるべきではないという決断に至っています。

〇インタビュー・文:内田俊一 写真:内田俊一・内田千鶴子