メルセデス・ベンツ日本株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 上野 金太郎
1986年1月設立。来年創業30周年を迎えるのがメルセデス・ベンツ日本だ。いま全国にある正規販売数は209店舗。2年連続で国内新車登録台数記録を更新し、プレミアムセグメントとしては首位の年間登録台数6万台を記録している。リーマンショック、東日本大震災、数々の試練を乗り越え初の日本人社長となった上野金太郎氏に話を伺う。
「メルセデスであり続けるために、いい意味で 期待を裏切る“何か”を提供し続けていく。」
上野 新しいことに挑戦しているからといって、昔からのやり方をかえて、これまでのお客様をないがしろにするようなことは一切していません。というよりも、これまで以上にホテルでのイベントであったりお客様向けのゴルフトーナメントなどにも、力を入れています。たしかに「あのアニメのCMはなんだ」といったご意見も頂戴することもあったんです。そう言われるお客さまにも来場いただければ、いまのメルセデスが目指しているところについてじっくりとご説明しますし、皆さん納得してくださいます。ですから従来のやり方だけにとらわれず、新しい、何か驚かれるようなことと、メルセデスらしいこと、その両方に取り組んでいかなければいけないと思っています。
加藤 なるほど、新しい挑戦がブランドの再興というか、カンフル剤としての役割も果たしていると。
上野 そうなんです。一方で驚くのは例えばSクラスはこのセグメントにおいて圧倒的な強さをもっていて、昨年は6500台も売れたんです。
加藤 本当に強い存在ですね。一番上のクラスなのに全体の1割以上を占めている。
上野 例えばGクラスも、昨年、日本では世界で2番目に売れました。ディーゼルモデルを導入したらまた一気に伸びた。30年間も作り続けられているモデルがです。ですから、こうしたロイヤルカスタマーがいまも離れずいてくださって、さらにAクラスやGLAクラスで新規のお客さまが増えたことで6万台という数を実現できているわけです。
加藤 ブランドとしては増えすぎると飽きられる危険性はありませんか?
上野 エリアでいえば、セールスの6,7割を東名阪が占めていますから地方でも拡販していきたいですし、あとはやはり若い世代へのアピールもきちんとしなければいけないとおもってます。
加藤 ここ(メルセデス・ベンツ コネクション)などはまさにうってつけの場所ですよね。冷静に考えるとメルセデスが飲食をやっているんですから、無茶苦茶な感じはしますが。
上野 ほんと、無茶苦茶なんです。ここではクルマは売ってなくて、コーヒーやパスタを売っている(笑)。
免許もない、クルマへの興味もない、そういう人にも間接的で良いので何かクルマのあるライフスタイルというものを感じてもらえればいいのかなと。ここならばお客さまはセールスを受ける心配もないし、その気になれば試乗もできます。裏に十数台の試乗車を用意しています。
メルセデスがこういう店をオープンすることは世界初の取り組みでした。今だから言えますけど、本社からは反対されていましたし、本当のことを言うと怖くて怖くて……。1店舗目は借地の契約もあって18ヶ月と決まっていました。それで結果的にうまくいったし2店舗目はもういいんじゃないかなと思ったんです。そうしたら、社員たちがまだ続けましょうと言ってくる。もう引くにひけない(笑)。
加藤 さらに大阪にも出店されて、東京以上にお客さんがきているとか。
上野 そうなんです、オープンから3週間で来場者が20万人を超えました。この日本発の試みが認められて、これから「メルセデス・ミー」というの名前でハンブルグを皮切りにミラノなどで海外展開がはじまります。
ここはマーケティング上の発進基地でもありますから、毎日報告をもらっています。レストランの売上やコーヒーの売上、いま人気のランチメニューは和牛ハンバーグとカルボナーラ、そんなことも把握しています。
それから、これまでは年に2、3回しかできなかった新車発表会が、ここを会場として使用できることで、ほぼ全車種、年に10回くらいはできるようになった。例えばGLクラスのディーゼルモデルを導入するときも、わざわざホテルをおさえてまではできませんが、ここならば可能です。まだまだ輸入車はニッチな存在ですから、少しでも多くの方に見ていただける機会を増やしていきたい。
加藤 日本市場において、6万台からさらに伸ばしていくことは可能だと考えていますか?
上野 容易ではないと思います。ただし、6万台をコンスタントに売れる基礎体力をつけていく必要があると思っています。わたしが入社したころには、グローバルで見て、日本市場はベスト10に入るか入らないかくらいだったのですが、この数年でイタリア、フランスを抜いていまは世界で5番目の市場になりました。中国、アメリカ、ドイツ、イギリス、日本の順です。
ちょっと自慢話みたいになってしまいますが、ドイツ本社でマーケット・オブ・ザ・イヤーを決める世界会議があるのですが、メルセデス・ベンツ日本は2012年から3年連続で受賞しています。これは台数だけではなく、伸長率や競合比較といった質の面も含めてトータルで評価されるものです。メルセデス・ベンツコネクションのような取り組みもその評価の要因になっています。
加藤 従来のやり方と新しい試みと、その両輪での取り組みが本社でも評価されているということですね。ロイヤルカスタマーの期待に応える一方で、従来のメルセデスの殻を破るような、新しい顧客との遭遇も目指していくと。
上野 メルセデスの魅力をより引きだす方法とは何か。それは国によってもそれぞれ事情はちがいますし、考えぬいて挑戦していくしかないと思うんです。
日本は国産メーカーの数が多く、乗用車における輸入車のシェアは約5%(軽自動車を含めた場合)と先進国の中でも圧倒的に少ない。もちろん価格帯が高いこともありますが、その分低金利や残価設定ローンやメルセデスケアといった保証システムなどを用意して、買いやすくする工夫をいち早く取り入れきました。そしてリセールバリューも高い。
わたしももうすぐ51で、まわりの同級生にも「そろそろメルセデスに乗ってみれば」と言うんです。すると「まだ早いよ」という答えが帰ってくる。
加藤 たしかに我々の世代にはメルセデスにはあがりのクルマのイメージがあるかもしれません。
上野 でも本当は体力もあって、人生において脂ののったいまじゃないとわからない良さがあると思うんです。「あがりのクルマじゃない、メルセデスと一緒にあがろうよ」と。現役でいられるのもあと2、30年しかないわけで、いつ乗るのよと。
加藤 それはもう“今でしょ” と言うしかないですね(笑)。
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1959年生まれ。東京都出身。大学卒業後はテレビ番組制作会社に勤務。1985年、出版社である二玄社へ転職。自動車専門誌『カーグラフィック』に配属される。2000年に編集長に就任。2007年には姉妹誌であった『NAVI』の編集長も歴任した。2010年に二玄社からカーグラフィックの発行を引き継ぎ同社を設立、代表取締役社長を務める。
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