インタビュートップ > Vol.16 株式会社キャロッセ 代表取締役社長 長瀬 努

株式会社キャロッセ 代表取締役社長 長瀬 努

プロトンは1983年に創設されたマレーシア最大の自動車メーカーだ。当初は三菱自動車と提携し技術供与などを受けていたが、近年は独自のモデルを生産している。株式会社キャロッセは2011年よりプロトンの3ドアハッチバックモデル・サトリアネオの輸入販売を手がけている。“クスコ”ブランドをはじめとする競技車両やドレスアップ車両用のアフターパーツメーカーである同社がなぜプロトンの販売を手がけるようになったのか。その狙いや今後の展望について、株式会社キャロッセ社長の長瀬努氏に話を伺う。

全日本ラリーを走っているミニとプジョーもうちで製作したものです。

F ちなみにいま年間どれくらいの台数が売れているのですか?

長瀬 いまはもうほとんど売れていなくて、2?3台ですね。

F そんなに少ない。それではあまり儲かりませんね。

長瀬 そうですね(笑)。まあ、そもそも儲けようとしてはじめたことではなくてあくまでモータースポーツの底辺拡大が目的でしたし、最近はトヨタ86やスバルのBRZが登場したり、新しいマツダデミオやトヨタもヴィッツでWRCへの参戦を発表するなど、下のクラスがどんどん盛り上がってきています。

F 86はいまラリーでも人気みたいですね。たしか豊田章男社長も自身でドライブされていました。

長瀬 そうなんです。いま全日本ラリーなんかも盛り上がってきていて、60台の枠がすぐに埋まってしまうくらい。また国産車だけじゃなくて、輸入車も参加台数が増えてきて、実は今年、全日本ラリーを走っているミニクロスオーバーとプジョー208GTiの車両はうちで製作したものなんです。

F あれ、プロトンはどうされたんですか?

長瀬 プロトンではFIA アジアパシフィックラリー選手権に参戦してきて、2012年、2013年は2年連続で2WD部門のチャンピオンになり、昨年はマニュファクチャラーズのタイトルも獲得できたので、ひと段落ついたところです。

F そんなに強いんですね。でもサトリアネオは2006年に登場したモデルのようですから、新しいモデルと戦っていくのは難しいように思うのですが、なぜ3年もタイトルが取れたのでしょうか?

長瀬 おっしゃる通り、新しいモデルではないので一発の速さでは劣ることがありますが、しかしラリーでもっとも大切なのは壊れないことなんです。ミッションとベアリング関係は三菱自動車製ということもあって、このサトリアネオは本当に丈夫で壊れない。気がついたら、まわりが勝手に潰れていく。そんな感じでしたね。

F なるほど。たしかにデビューから9年も経過して熟成されているでしょうし、信頼性の面では相当に高そうですね。しかし、86などの新しいモデルに対抗できるようにそろそろ次期型が出てもいいのでしょうが、そんな話はないのですか?

長瀬 そうですね、それについてはいまのところ正式なアナウンスはありませんが、新型がモータースポーツのベース車両に適したモデルであればまた輸入したいと思いますね。

F こうした比較的安価なモデルが登場したことで、日本のモータースポーツ人口は増えているのでしょうか?

長瀬 一時期、減ったモータースポーツ参加者は増えつつあります。B級ライセンスの取得者も年々増加しています。それにクルマの性能がどんどん良くなってきたことで、平日は通勤などに使って、競技には参加しないまでも週末とかにサーキットでスポーツ走行を楽しむような人がたくさんいます。もともと当社のクスコにとってもLSD(リミテッド・スリップ・デフ)は代表的なパーツなのですが、今年からはイギリスのクワイフ社の正規代理店になりました。うちの製品は国産車用がメインですし、一方でクワイフはフォルクスワーゲンやBMW、ポルシェといった欧州車用のラインナップが豊富で、そういった欧州車でチューニングを楽しむユーザーにも対応していきたいと思っているからなんです。

F やはりこの数十年でチューニングを楽しむ層もどんどん変化しているのでしょうか。

長瀬 していますね。昔は自分の食費を削って、ガソリンをいれるみたいな。

F 給料手取り15万円で、クルマのローンが12万円みたいな(笑)。

長瀬 さすがにそういう人は減りましたね。携帯電話とかパソコンとか、クルマ好きな人ってメカとか道具が好きな人が多いですし。そういう意味ではクルマに1点集中というよりは分散化してきています。それからクルマ自体も、スポーツカーだけでなく、いわゆるミニバンがカッコいいと世間に認められるようになってからは、クルマ好きもいろんな方向に分かれてきた。うちでもミニバン用に車高調整サスペンションを出していますが、こちらの場合は乗り心地をいかに悪化させず、車高をきれいに落とすか、どうやってきしみ音がでないようにするかなど、そういったところにこれまで培ったノウハウをつぎ込んでいますね。

F なるほど、そんなところにもモータースポーツ活動のノウハウが生かされていると。ところで社名のキャロッセ(CARROSSER)というのはどういう意味なんですか?

長瀬 フランス語で四輪馬車の意味で、英語のカーの語源なんだそうです。諸説あるようですが、創業者がクルマ文化の発展を願ってそう付けたようです。

F この群馬県には、クルマ好きがとても多いと聞きます。

長瀬 それはそうですね、上毛三山と言って、赤城山、榛名山、妙義山がありますし、少し走れば碓氷峠もある。そうした走って楽しめる環境が揃っているんですね。いまも早朝にいくと私よりも年配の人たちがそれこそフェラーリやポルシェや旧車などで楽しんでいるのを見かけます。欧米にくらべてモータースポーツの歴史が短い日本ですし、とかくするとクルマ=暴走族に見られがちですが、しっかりと文化として根付いてほしいなと思いますね。

F 浅間ヒルクライムなどまさにそれを象徴するようなイベントですね。今後のプロトンでのモータースポーツ活動も期待しています。

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インタビュアー:フェルディナント・ヤマグチ
コラムニスト。半導体・電子部品専門のマーケット・アナリストとしての顔をもつ一方で、コラムニストとしても活躍。「日経ビジネスオンライン」、「Tarzan」、「cakes」等に連載をもつ。トライアスロンを趣味とし、圧倒的なバイタリティでプライベートと仕事を両立。仕事の関係上誌面への顔出しはNGでマスクがトレードマークになっている。

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